株式会社セントラルビレッジ

事業承継税制について

当社のある東京千代田区は、日本で最も大企業の本社が集中しているところだと思いますが、非上場の中堅・中小企業も多数あります。どの企業も生き残りをかけ、日々様々な経営努力を重ねています。
企業が存続し続けるためには、日々の経営努力だけでなく、事業承継(事業継承)をいかに円滑に乗り切るかということもとても大切な課題です。

平成20年10月に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」が施行され、その施行にともない、相続税及び贈与税においても、「非上場株式等についての納税猶予の特例(事業承継税制)」が創設されました。
団塊の世代の経営者からの事業承継に直面し、長年、多くの方々が問題提起してきた中小企業の事業承継問題に対し、税制面で支援する仕組みができたということは、大変画期的なことだと思います。
事業承継税制ができたので、もし相続が起こっても(自分が死んでも)自社株式の承継で後継者が困ることはないと安堵している中小企業経営者も少なくありません。
はたして、本当にそうでしょうか?

事業承継税制は、大変意義深い画期的な制度ではあるのですが、その限界とリスクを十分理解した上で、活用していただきたいと思います。

事業承継税制活用のキーポイント

事業承継税制には、「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」がありますが、結論から申し上げれば、事業承継をスムーズに進めるためには、相続税の納税猶予制度に依存することなく、贈与税の納税猶予制度を上手に活用することがポイントになります。

相続税の納税猶予制度の限界とリスク

まず、相続税の納税猶予制度の対象になるのは、発行済の議決権株式の3分の2までの株式で、その株式に対する相続税の80%相当の相続税が納税猶予されます。

たとえば、自社株式を全部保有しているオーナー経営者について、その保有する自社株式に対する相続税が3億円だとしましょう。納税猶予の対象は3億円×2/3×80%=1.6億円となり、全株式を事業承継者に承継しようとすれば、猶予される1.6億円を除く1.4億円の相続税は納付しなければなりません。

次に、制度は相続税の「免除」ではなく「猶予」であり、納税の猶予が解除されて、相続税を納税しなければならないこともありえるということです。それでは、どんな場合に納税猶予が解除されるのか?他にも解除されるケースはありますが、代表的な例は以下の2つのケースです。

① 相続税の申告期限後5年間の雇用の平均値が相続時の80%未満になった場合、納税猶予されていた相続税を納付しなければなりません

② 相続税の納税猶予の対象になった自社株式を、譲渡した場合、納税猶予されていた相続税を納付しなければなりません。(贈与、合併、株式交換等も納税猶予の解除の要因になることがあります。)

規模が大きな非上場企業のリスク

オーナー経営者の相続は、いつ発生するかわかりませんし、当然、相続の発生次期をコントロールすることもできません。
オーナー経営者が死去したときに、好景気で会社の業績もよく、自社株式の評価が高く、とても後継者が相続税を負担することができないようなケースでは、相続税の納税猶予制度の適用を受けざるを得ません。
しかし、相続後、2,3年で経営環境が激変し、大きな赤字を計上するようになったらどうでしょうか?

規模が大きな非上場企業は、好況時に自社が好業績であれば自社株式の評価額が極めて高くなるリスクがあります。規模が大きくなれば、在庫、設備投資、従業員数の規模も大きくなります。大手企業との競合も激しくなります。
不本意だとしても、生き残るためには、事業の統廃合、店舗の撤退、設備の廃棄、従業員数の抑制、M&A、資本提携等の選択を機動的に実行しなければならないこともあります。
相続税の納税猶予を適用したがゆえに、経営の舵取りが制約され、決断が遅れて企業の事業継続ができなくなってしまえば、本末転倒といってよいでしょう。

相続税の納税猶予制度は、比較的規模の小さな会社にとっては使い勝手がよいのですが、規模が大きな中堅企業においては、経営上のリスクを内在させると思います。

贈与税の納税猶予制度の活用

贈与税の納税猶予制度の要件は基本的に、相続税の納税猶予制度と同じです。納税猶予の対象になるのは、発行済の議決権株式の3分の2までの株式で、その株式に対する贈与税全額の納税が猶予されます。贈与をしたオーナー経営者に相続があった(死亡した)場合には、猶予されていた贈与税が免除され、贈与された自社株式について、死亡したオーナー経営者の相続財産に含めて相続税の計算を行うことになります。相続税の課税対象になるようであれば、贈与税の納税猶予制度は意味がないようにも思えますが、相続の段階で、相続税の納税猶予制度をうけることも可能です。

そして、贈与税の納税猶予の対象になった自社株式は、贈与時の株価評価額で相続税を計算することになります。これが重要なポイントです。事業承継計画を綿密に立て、自社株式の評価を十分に引き下げた上で、自社株式の贈与を行い、贈与税の納税猶予を適用すれば、オーナー経営者の相続があったとしても相続税の評価額も低く抑えられます。また、相続の段階でも相続税の納税猶予制度を適用できます。

仮に、贈与後に、従業員をリストラせざるを得なくなって、猶予されていた贈与税を納付するような場合でも、負担せざるを得ない贈与税は最小限に抑えられます。相続と違って、贈与は時期をコントロールできます。綿密な事業承継計画に基づいて、納税猶予制度を活用してください。
事業承継計画に基づいて、非上場株式等の納税猶予の特例(事業承継税制)を適用するためには、事業承継の実務に精通した経営コンサルティングに相談することをおすすめします。

中小企業の事業承継についての様々な知識を持ち、経営コンサルティングとして継承問題財務問題相続問題について的確なアドバイスを行います。M&Aをお考えの方もご相談ください。オーナー経営者様をしっかりサポートできる経営コンサルティングとして尽力いたします。